『みそぎ』
クロエはキリカに想いを込めたキスをする。
初めてのキス。
ずっとしたかったキス。
二人はしばし唇を重ねたまま…
しばらくして顔を離す。
キリカはクロエを見る。
溢れる想いのままにクロエはキリカを抱きしめる。
キリカはクロエを受け入れた。
泉の中に立ったまま、二人は抱き合う。
また体を離す。
クロエはキリカを再び抱きしめる。
キリカは…いつのまにかクロエの背に自分の手を回していた。
力が抜けたようになって二人はへたり込んでしまう。
腰まで水につかって座り込む二人。
顔を見合わせる。
熱い吐息が二人の間をかよう。
その時、キリカは初めてクロエがきれいな事に気づいた。
初めて…クロエをありのままで見つめた。
キリカには何もなかった。
キリカ…パリに居たころの自分ではなく、今の自分には。
今の自分を受け入れてくれる者は世界のどこにもいなかった。
あの三本目の苗木は、わたしを受け入れてくれるだろうか?
いや、駄目だろう。
あの者が大切に想っているのはわたしではない。
わたしの中にいるもう一人のわたしだ。
わたしは罪びとであり、わたしはずっと…独りきりだ。
でも…クロエは、そしてアルテナは…
わたしを本当に受け入れてくれるのはあの人たちだけだ。
ありのままのわたし…
罪びとであり、闇の人間であるわたし…
どうにも変えられない自分。
わたしは闇に生きているし、闇に生きるしかないのだ。
それがわたしなのだから。
でもアルテナは言ってくれた、あなたは家族だと。
クロエとアルテナはわたしを暖かく、優しく受け止め、愛してくれる。
無邪気に、素直に、深く、わたしを愛してくれる…
闇の中に生き、だから光を求めるのではない。
闇の中に生き、そして、闇の中を
ともに
手を携えて生きていく…
闇をともに生きていってくれるクロエ…
わたしたちはノワール…ノワールは絆…闇の中を一緒に生きていく絆…
闇の中でともに生きることを誓い合った二人…
一人では闇に生きるのは耐えられないかもしれない。
かつてわたしは耐えられなかった。
わたしは逃げ出した。
でも今なら…
二人なら…クロエ、あなたとなら…あなたたちとならわたしは…
クロエ…アルテナ…わたしたちは闇の家族。
あなたがいてくれて…あなたたちがわたしを迎えてくれて…
わたしをずっと待っていてくれて…ありがとう。
クロエ…わたしは…わたしは…
わたしはあなたが…
キリカは両手でそっとクロエの頬を包み、自分の方に引き寄せた。
驚くクロエ。
その瞳をじっとキリカは覗き込む。
キリカはクロエにキスした。
涙が頬を濡らすのを感じた。
長いキスの後、ようやく唇を離す。
再び顔を見合わせる。
キリカは自分でもわかるほど顔が紅潮するのを感じ、クロエに抱きついた。
クロエは身をぴったりと自分にあずけているキリカの鼓動を感じ、両手をキリカの背中に回す。
泉の真ん中で座り込んだまま、二人はずっと抱き合っていた…
『みそぎのあと』に続いている…かも?
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