『アルテナの内部における、アルテナと他との関係』




アルテナと他人、またはアルテナと世界の関係はどのようなものだったのでしょうか。
それは全く異なる二つの種類の表情が顕著に顕しています。

1:第24話「暗黒回帰」Bパート、聖堂で黒キリカに銃を返し、黒キリカに銃を向けられた時。

2−a:第12話「刺客行」Bパート、荘園に帰ってきたクロエに「アルテナー!」と呼びかけられて振り返った時。
2−b:第20話「罪の中の罪」Aパート、葡萄をたくさん積んで来たクロエに「アルテナ」と声を呼びかけられて面を上げた時。
2−c:第24話「暗黒回帰」Aパート、夜に部屋で寝かしつけた黒キリカに「ア、アルテナ!」と呼びかけらて振り返った時。

1の絵と2−b の絵はこちらです。
なるべく正確な資料をお見せしてそのもとにお話したいので、この2つの絵は見て描いた模写なのですが、その辺はご容赦を。



暗黒回帰で「あなたにこれを返しておきましょう」と黒キリカに銃を返し、
そして黒キリカに銃を向けられる『前』に、アルテナはすでに微笑んでいます。
そして予想通り銃を向けた黒キリカにその笑みを浮かべたまま「お撃ちなさい」と言います。

結論から言えば、アルテナにとっては、世界の、自分への憎しみは当然のもの、前提のものでした。
そして黒キリカの自分への憎しみの銃を見つめ、あの微笑を絶やさぬのです。
翳りのある、残酷、冷酷とも言えるあの微笑は、世界に対するアルテナの心そのものであり、
世界とアルテナの、アルテナの内部における関係を象徴しているのです。
世界は常に自分に対して憎しみを向け、敵意を向け、排除をする。そしてそれが当然なのだ。自分への敵意には慣れている。
なぜなら自分は罪の中の罪であり、もっとも許されざる者なのだから。
だからあの時、黒キリカに銃を向けられる『前』に、すでに微笑んでいたのでしょう。

そしてあの笑みにいくばくかのさびしさ、むなしさが含まれているのが、
そのように生きるしかないアルテナのつらさ、苦しみを暗に顕していると思っています。
「あなたの安住の地はここにしかありません」、
この言葉は黒キリカへの言葉であると共に、アルテナ自身に向けられた言葉でもあるのです。
もっとも許されざる罪を背負い、闇に生きる者、そういう種類の人間が救われるには同じ種類の者同士が集い、慰めあい、
共に支えあっていくしかない。アルテナにはそれがよくわかっていたのです。
世界においてただ独りであった黒キリカを受け入れ、懐に抱き入れる事は、かつて同じ苦しみ、絶対の孤独と罪の意識の苦しみを
味わってきたであろうアルテナの、「あの頃自分がまさに求めていた救いの形」であり、
「あなたの安住の地はここにしかありません」は、「あの頃にこそ自分が言ってほしかった言葉」なのです。
ですがこの暗黒回帰のあの場面については、また後ほど別に詳しく語ることにしましょう。

話がややそれましたが、アルテナは自分への敵意には慣れていた。平気だったかどうかはわかりませんが。
おそらく平気ではなかったからこそ、アルテナは上記のように「安住の地」「同じ種類の支えあえる仲間」を求めていたのでしょう。



しかし、2−a、2−b、2−c、に挙げたアルテナの表情は、いずれも驚きの表情です。
実は本編においてアルテナがそういう驚きの表情をするのはその3つの場面だけです。
いずれも、突然アルテナの名を呼ばれてそちらを向く、という場面です。
呼ぶのはクロエであり、黒キリカ。アルテナが世界でただ二人、優しくする者達です。

これも結論から先に言えば、アルテナは自分への純粋無垢な好意には全く慣れていませんでした。
だから無防備な驚きの素顔になるのです。
クロエや黒キリカに自分の名を慕いの想いを込めて呼ばれるとき、「えっ」「あっ」「はっ」となるのは、
自分から優しくすることはあっても、自分が優しくされることには慣れていないアルテナの内面をよく顕しています。
クロエと黒キリカに自分から優しくするとき、アルテナはいつも穏やかで優しい微笑みを浮かべています。
でもそれは常に心が「対クロエ」「対黒キリカ」のモードになっているからです。
それはその優しい微笑みが嘘だという事ではなく、彼女たちへの素直な愛情そのままの顕れなのですが、
あくまで「構えて」いる部分があるのです。慈母アルテナとして。彼女たちの求める姉(?)、母(?)として。
しかし、そういう風に気持ちが構えていない時、無防備な心の時に、不意に突然自分の名を呼ばれて慕われると、はっと驚いてしまう。

驚きの表情のもっとも最たるのは2−c の黒キリカに呼び止められた時ですね。
クロエに愛されていることは知っていた。(それでもやはりクロエに不意に呼ばれると驚いてしまうわけですが)
でも黒キリカに慕われているとは思っていなかったのかもしれません。
だからこそあの時、目を大きく見開いて驚愕の表情になり、しばし固まってしまったのでしょうね。



世界の自分への敵意には慣れていた、
また自分からクロエたちに優しくする事はあっても、クロエたちから優しくされる事には全く慣れていなかった、
自分が人から優しくされる事もあるかもしれないという事を思いにもよらなかった、

というのが、アルテナの内部におけるアルテナの他の関係であったと思います。

アルテナは自分が本当に愛されるに値する人間だとは思っていなかったのかもしれません。
それで、自分への敵意に対して冷酷に微笑み、自分への好意に無防備に驚く、そんな風になっていたのでしょうね。



そして私は、そんな風に敵意に対して冷酷に微笑みながら、
それでも好意に対して子供のように驚いて無防備な素顔を見せてしまうアルテナが可愛らしくて大好きです。


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