「木漏れ日の下で」


永い旅路の果てに、ノワールの処女、霧香は荘園へと帰還した。
数年ぶりに愛し子の姿を目にして感極まったアルテナは、霧香を自らの胸に掻き抱き、歓喜の言葉で迎えた。

「愛しい霧香、よく帰って来てくれました、私達はあなたの帰郷を心より願っていました」

アルテナの胸に抱かれた霧香は、その暖かな懐に身を預けて帰宅の言葉を述べた。

「ただいま・・・」

しばらくの間、霧香とアルテナは二人きりで話をしていた。
霧香は様々な事を聞いた。

幼い頃、荘園に住んでいたこと。
異なる可能性を求め、ノワールの苗木はそれぞれ違った場所で育てられたこと。
これからは家族として、ここで暮らすということ。

その様子を建物の影から覗き見るクロエの姿があった。
霧香が決して幻ではなく、確かにそこに居るということを確認する様に、そっと見つめていた。

クロエは話が終わった後の霧香に走り寄り、手を取って霧香の帰還への歓びを伝えた。
それからクロエは霧香の為に何かと世話をやいて傍を離れることがなかった。



霧香が荘園にやって来て数日がたった天気の良い昼。
あてがわれた部屋で何をする事もなく、霧香は椅子に腰掛けていた。

コンコン

扉がノックされる軽い音が室内に届く、ゆっくりと扉が開かれ、遠慮がちにクロエが部屋に入ってくる。
霧香の前に立つクロエはソワソワするばかりで、なかなか用件を切り出せない。
しかし、このままでは状況は何も進展しない、そう思ったクロエは勇気を出して霧香に声を掛ける。

「あ、あの、わたしと一緒にお散歩しませんか、 荘園に着いたばかりで不慣れでしょうから・・・
 迷子にならないように、わたしに案内をさせてくれませんか・・・」

控えめだが、どこか懸命さを醸し出し霧香を誘う。
普段は人と積極的に関わる事をしないクロエであったが、霧香の事となると話は別だった。
霧香と共に暮らす事が出来る・・・・何年も待ち続けたこの時がようやく訪れてクロエは嬉しかった。
クロエは少しでも多くの記憶を霧香と共有したかった。
共に過ごす事が出来なかった今までの時間を取り戻すかの様に、新たな絆と想い出を求めた。

誘いを断る理由は無い霧香は、その申し出を受けて散歩に出かけることにした。



クロエは歓びを露に満面の笑みで霧香と手をつなぎ、足取りも軽く荘園をあちこちと案内する。


 こんなに楽しいこと・・・わたし・・・初めて。


クロエは霧香との散歩を心から楽しんでいた。

「あなたが荘園に帰って来てくれて嬉しいです。
 あなたとアルテナ、そしてわたしの三人で一緒に暮らせるなんて、夢みたい」

クロエは陽光を受けた向日葵の様な笑顔を咲かせる。
クロエの無邪気な笑顔に霧香は、暗闇に閉ざされた自身の心の扉が開き、光が差し込むのを感じた。
のんびりと荘園を歩いている二人、やがてクロエがよくアルテナの膝枕で眠る、大きな木の丘が目に入る

「疲れたでしょう、ここで少し休みませんか」

クロエは木に背をもたれ掛けて腰を下ろす。
霧香は、座るクロエの前に立ち尽くしたまま、眼前に広がる荘園の葡萄畑を見渡している。
淡い緑の大地と深紫の葡萄が陽光を反射し、宝石の様な輝きを放っている。

「綺麗でしょう・・・わたしはここから見える景色が好き・・・この風景をあなたにも見せたかった・・・
 だから、あなたとここに来る事が出来て、わたしは嬉しい・・・」


霧香は心奪われた様に葡萄畑を眺め続けている。
どれ位の時間そうしていたのだろう、霧香は背後で座っている筈のクロエの声が聞こえなくなった事に気づいた。
後ろを見ると、クロエはいつの間にか横になって寝ていた。

クロエの就寝を確認した霧香は振り返り、再び輝く緑の大地を見入る。
サラサラと風に乗って漂う爽やかな葡萄の香りに、霧香は郷愁に包まれる。


 これがわたしの故郷・・・・荘園の風、クロエとアルテナの匂い・・・・不思議と安らぎと懐かしさを感じる・・・・


感慨にふける霧香の耳に、クロエのささやく声が届く。

「・・・わたしは・・・あなたが好き・・・」

「え・・・」

霧香は振り返る、しかしクロエは相変わらずスヤスヤと寝息を立てている、どうやら寝言の様だ。
眠るクロエが微笑みを浮かべながら、再びささやいた。

「あなたが好き・・・」

それは霧香への密やかな想い・・・・眠るクロエから柔らかな風に乗って贈られる、霧香への愛情の証。
穏やかな寝顔を見せるクロエを見つめていた霧香は、クロエの傍まで歩み寄り膝をつく。

「あなたの気持ちは知っているわ」

普段笑顔を見せる事の無かった霧香が優しげな微笑みを浮かべた。

「あなたの魂は、幼な子の様に純粋で美しい」

クロエの頬に手を添えてやんわりと撫でる。

「わたしは、綺麗な心を持つあなたが好き・・・」



それは、木漏れ日に照らされた処女達の告白。

霧香は安らかに眠るクロエにそっとキスをする。

二人のささやかな想いは今ひとつになる。

やがて、くちづけを終えた霧香はクロエに寄り添い、目を閉じて眠りにつく。



澄み渡る青い空の下、眠る二人を包み込む、優しい風が荘園に流れていた。











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『木漏れ日の木の下で』

雪風さんから素敵なSSを頂きました。
第24話のネタバレが少しありますが、ほとんど関係ないと思うので(笑、
第24話をまだ見ておられないという方でも問題なくお楽しみいただけると思います。
すなわち、クロエと黒キリカのらぶらぶ。

クロエと黒キリカのほのぼのとした交歓が素晴らしいです。
雪風さん、このたびは素敵なSSをどうもありがとうございした。


ためらいがちに黒キリカさんをお散歩に誘うクロエさん萌え!
なんだかんだと付いていく黒キリカ萌え!
寝言萌え!
もう一度寝言萌え!
クロエの頬に手を添えてやんわりと撫でる優しい黒キリカ萌えっ!
そして! 
クロエが眠ってる時だけ強気(?)な黒キリカ萌えっっ!!



幾つか挿絵を描かせていただいています。
挿絵はこちらです



以下に荘園掲示板でのネタ膨らみが続きます(笑


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