『アルテナのスキンシップ』




アルテナはクロエやキリカとよくスキンシップします。

クロエをひざまくらして頭をなでなでしなり、
走ってくるクロエを回転キャッチしてその後抱きしめたり
クロエのおでこにおやすみのキスをしたり、
クロエに寝物語を聞かせてあげたり、
荘園に来たキリカをお出迎えして抱きしめたり、
本を朗読するキリカを後ろから抱きしめたり、
ベッドに横たわるキリカに毛布をかけてあげたり、
膝をつくキリカを抱きしめたり、
みそぎの前にクロエとキリカの頬に手をあてて一緒に抱きしめたりします。

アルテナ、スキンシップしすぎ。というか抱きしめすぎ。

クロエとキリカを愛する心の発現がこのような抱きしめたりキスしたり抱きしめたりという惜しみなく注がれるスキンシップになるのはなぜでしょうか。
それはかつて荒野をさまよったあの頃の少女アルテナが欲しくて欲しくてたまらなかった事、でもどうしてもしてもらえなかった事、
愛情に満ちた暖かいぬくもりを求める心の渇望が転換した結果です。
つまりアルテナはクロエとキリカを抱きしめる事で、自分の中に未だに居るうつろな目をしたあの少女アルテナをも抱きしめているのです。
二人にスキンシップをする事によって、アルテナ自身もまた安らぎを得て癒されているのです。
だからこそ、二人に急に名を呼ばれて慕われた時、さらに驚いて度を失ってしまう。
アルテナ自身にさえ意識できない秘められた願望は、アルテナによるクロエたちを包んでいる暖かい愛に、
まさにアルテナ自身が包まれたかった、そして今包まれたいという事です。
ですから、クロエたちに積極的に優しくしてアルテナが照れたり可愛がられたりする事があれば、
それはアルテナにとってのこの上ない癒しとなります。
クロエたちに優しく抱擁され、包容される事によって、アルテナは少しづつ、少しづつ、
今まで決して癒される事のなかった心の飢えと渇きを満たしていけるでしょう。
このような背景があるからこそ、アルテナが可愛がられて照れたり恥ずかしがったり赤面したりする情景に、
私達は萌えと共に、安らぎと救いを見出すのではないでしょうか。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


もう一つ、アルテナだけでなく荘園の人たちの全てがスキンシップを大好きな理由があります。

「お撃ちなさい、もしそれがつとめであったならノワールは撃たねばなりません、たとえ相手がわたしでも」
アルテナの言葉にもあるように、闇に生きて最も許されざる罪を背負う使命に殉じる者たちは、
いつどんな時に死を迎えるかわからないという事、また、
いつどんな時に、つい今の今まで仲間であった者たちを殺さねばならない状況になるかもしれないという事を日々覚悟して生きています。
でも互いがかけがえの無い大切で愛すべき者であるという事も変わりは無い。
だから彼女たちは今、この時を大切にして生きています。
この安らぎの時はつかの間の事、すぐにも終わるかもしれない、自分たちは明日にも死ぬかもしれない、
もしかしたら互いに殺し合わねばならなくなるかもしれない、だからこそ、今、この時、この場所で、互いの愛を確かめ合う。
互いがちゃんと生きている事を、互いの肌のぬくもりを確かめ合う。

「もし明日すべてが終わりになったとしても後悔しない生き方とは何だろうか?」

私の好きなある漫画の一節を借りるならこういう言い方になるでしょうか。
とても刹那的ではありますが、一瞬一瞬を大切に大切に、惜しみない愛を互いに与える事は、
いつ終わりを迎えるかしれない過酷な生を生きる彼女たちにとってはごく自然な事であるとも言えるでしょう。
その時その時を精一杯に生き、一生懸命に心のままに愛する。後悔のないように。次があるかはわからないのだから。
アルテナは確かに自ら考えた長期的な計画にその身を置き、その心は非常に冷徹で抑制されています。
その計画は、もしかしたら、もし運命のいたずらがあれば、クロエも、キリカも、失うものであるかもしれない。
しかし、今目の前にクロエが、キリカが、生きて息をして、自分を愛してくれている、必要としてくれている、
声をかけてくれる、腕を伸ばして手を触れてくれる、その息づかいと鼓動を感じ取る事が出来る。
そのような時にアルテナはどうにもならなくなって思わず二人を抱きしめます。
今この時の安らぎ、そのかけがえのない大切さを、無意識の内にですが、アルテナは誰よりも知っているのです。

ノワール継承の儀式の前に荘園の一室でアルテナはクロエとキリカを引き寄せて抱きしめます。
震えるクロエの告白「アルテナ、わたし、あなたに愛されて幸せです」に「まあ、わたしもですよ、クロエ」と応えるアルテナは、
一瞬後目を細めて憂いの表情を浮かべますが、それでもそのアルテナの言葉は心の底からのものだったのです。

アルテナはボルヌを撃ちます。それはアルテナがボルヌをなんとも思っていない事を意味するのでしょうか? 
マレンヌは白霧香に斬りかかります。それはマレンヌが黒キリカをなんとも思っていない事を意味するのでしょうか? 
そうではありません。そのようにするしかない場では彼女たちは躊躇する事なくそれを遂行します。
でも、大切に想っていないから、愛していないから、ではありません。
大切に想っていても、愛していても、そのような状況ではそのようにする、悲しい事かもしれませんが、それが彼女たちの在り方なのです。
アルテナはボルヌを親友として、マレンヌは黒キリカをノワールとして、そして親友アルテナの愛する娘として、大切に想っています。
だからこそ、つかの間の平安の時には、彼女たちは互いに優しくし合うのでしょう。

策を巡らす計画的な人間はえてして非常に刹那的です。
策を巡らし、人を陥れ、人の運命をもてあそぶ黒幕を気取り、冷徹なふりをして、自分でも自分を冷徹だと思い込んでいて、
それでも思わずクロエたちと恥ずかしげもなくらぶらぶなスキンシップをしてしまうアルテナ……をクロエとキリカに抱きしめさせてあげたくなります(笑

荘園の人たちのスキンシップは、彼女たちのそのあまりにも過酷な生が前提となっているものであり、
だからこそノワールを観る方々の心を惹きつけてやまないのではないでしょうか。


徒然文に戻る

NOIRのコーナーに戻る

トップに戻る