『マントとローブと』



しんとした荘園の夜。
クロエは自室に帰ろうと廊下を歩いていたが、
書斎から灯りが漏れているのに気づいて寄ってみると、
そこには蝋燭の灯りに照らされたアルテナの後ろ姿があった。
「アルテナ、……アルテナ?」
近づいてよく見ると、アルテナは開いた本の上にかぶさり、眠り込んでいる。
(アルテナ、疲れているのでしょうか……?)
かすかな寝息を立てて寝ているアルテナを無理に起こすのも可哀想だと思ったクロエ。
(でもこんなところで寝ては風邪をひいてしまいます)
着ている濃紺のマントを脱ぎ、ふわりとアルテナの肩に羽織らせる。
「おやすみなさい」
小声でそうつぶやき、クロエは身をかがめてアルテナの頭にそっと唇を押し付ける。
クロエは身を起こし、足音を立てないようにそっと部屋を辞した。

窓から差し込むやわらかい陽射しを受け、アルテナは目覚めた。
(どうやら本を読んでいるうちに眠ってしまったようですね)
頬に押し付けられている本のページをぺりっとはがし、身をおこす。
そこで肩にかけられたマントに気づき、少し驚くアルテナ。
(クロエ……なのでしょうか?)
身をつつむ白と紫の司祭服にかけられた濃紺のマント。
そのアンバランスな彩りにアルテナは微笑む。
(クロエ……)
顔をかしげ、肩口から垂れるマントにそっとくちづけをするアルテナ。
荘園に穏やかな朝が来る。



…………



荘園の晴れた午後。
キリカは書斎から本を持ち出し、いつもの大樹の下に行く。
座り込んで樹にもたれて、時折吹く涼しい風の中、本を読む。
しばらくすると気だるい眠気を感じるキリカ。
本を抱えたまま、うとうとと眠り込んでしまう。

強い日差しの中、外壁沿いに見廻りに歩いていたアルテナは、
遠くに大樹の元のキリカを認め、歩み寄る。
近づいてみるとキリカはお昼寝の真っ最中のようだ。
アルテナはキリカの横にひざまずき、キリカの頬にそっと手を添えて思う。
(こんなところで寝ていては……)
今はまだ暑いのだが、風も吹いているし、午後も遅くなれば外気は涼しくなる。
(……風邪を引いてしまいますよ)
しかし、うつむいて本を抱えて気持よさそうに寝ているキリカを起こすのをためらってしまうアルテナ。
アルテナはしばらくそのままひざまずいていたが、
昨日クロエが自分にしてくれた事を思い出し、やおら自分の白いローブを脱ぐ。
キリカにそっとそのローブを毛布代わりにかぶせるアルテナ。
アルテナはキリカの耳元に顔を寄せ、
(適当なところで起きるのですよ)
と心の中でつぶやいて、そっとくちびるをキリカの頭に押し付ける。
アルテナは静かに立ち上がって、大樹から歩み去った。

(……あれ? いつのまに寝てしまったんだろう)
目が覚めたキリカは寝ぼけ眼で辺りを見回す。
日差しは弱まり、大樹の影は長くなり、風が涼しさを増している。
もう夕方の気配が近いようだ。
自分に首元までかけられた白く大きなローブに気づくキリカ。
(これは……?)
涼やかな外気の中、身にかけられたローブのおかげで寒くない。
(アルテナ……なのだろうか?)
樹の下で、アルテナの白ローブを毛布代わりにして寝ている自分。
その非日常にキリカは戸惑う。
(アルテナ……)
ちょっとうつむいて、ローブにそっとくちづけをするキリカ。
荘園に涼やかな夕方が来る。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

荘園の日々はこうして静かに、穏やかに続いていく……

よいオチとして、居眠りするクロエに何かを羽織らせてあげるキリカのお話があればいいのですが、
キリカの深紅のローブを脱がしてしまうと下は簡素な下着のみとなってしまいそうなので挫折しました。
でもなんとかしてあげたいキリカの取った行動は……

1.何か羽織るものを取ってくる。
2.深紅のローブを脱いでクロエに羽織らせる。自分はちょっと寒い思いをしても平気。
3.深紅のローブを脱がずにクロエをそっと抱きしめる。
4.深紅のローブを脱いでクロエに羽織らせ、自分もそれを毛布代わりにしてクロエに抱きつく。人肌〜
5.以上の事を考えていたら脳みそが異常終了してその場に立ち尽くす。


ネタやSSに戻る

NOIRのコーナーに戻る

トップに戻る