『荘園の朝』

作:雪風さん


『アルテナとクロエの荘園の朝』

『クロエの朝』  

『アルテナとクロエの荘園の朝〜後日談〜』  

『アルテナとマレンヌの荘園の朝』  

『ボルヌとマレンヌの荘園の朝』

『キリカとマレンヌの荘園の朝』

『キリカとクロエの荘園の朝』

『クロエとマレンヌの荘園の朝』

『アルテナとキリカの荘園の朝』




『アルテナとクロエの荘園の朝』


アルテナとクロエの住む荘園に朝日が昇ります。
葡萄畑もキラキラと輝いています。

リリリリリッ!

アルテナの寝室に日が差し込み、朝を知らせる時計の音が響き渡ります。
「う、う〜ん……」
ベットの中からスウッと白い腕が伸び出てきました。

……プチッ…………

「……ふう、あと五分だけ……すやすや」 
目覚ましがなったというのにアルテナは起きません。
枕もとの時計を止めて布団の中にもぐってしまいました……今日も寝坊のようですね。
「すぅ〜すぅ〜……すやすや……」
お布団の中で幸せそうに朝の眠りを楽しんでます。

「おはようアルテナ、朝ですよ起きてください」
アルテナを迎えに来たクロエが布団の中でまるくなっている布団をアルテナを見下ろしています。
「……もう少しだけで、いいですから……寝かせてください……」
お布団からちょっとだけ顔をだして言ったあとすぐに顔を引っ込めてしまいした。
いつもの凛々しいアルテナからは想像できない行動です。
「ダメです」
クロエはお願いをあっさりと却下してアルテナの布団を勢い良くはがし取ります。
何しろ、朝に弱いアルテナを起こすのは毎日のことなのですっかり慣れっ子のクロエです。
「あっ……寒い!」
朝の澄んだ空気がぬくぬくとした幸せな世界からアルテナの意識を強引に覚醒させます。
「朝食の用意も出来てます。早く来てください」
クロエは特に気にした様子も無く淡々とアルテナの布団を畳んでいます。
「クロエ……寒いです」(ふるふる)
冷えた空気から身を守る布団をはがされたアルテナは体を震わせています。

「しかたありませんね、ではこうしましょう」
ひょい、とベットの上でちじこまるアルテナを抱き上げました。
「あっ……」
「これなら寒くないでしょう」
しっかりと抱きしめられたアルテナにクロエの体温が伝わっていきます。
「はい……」
クロエに抱っこされたアルテナは、恥ずかしさに顔を真っ赤にしています。
「さあ行きますよ、ちゃんとつかまってください」 
「はい」
アルテナはクロエの首に腕をまわして、ギュッと抱きつきます。
「ふぁ……」
クロエのぬくもりに抱かれてまたもや眠りがわいてくるアルテナです。
「あ、寝てはいけませんよアルテナ」
「す〜す〜……すやすや……」
注意もむなしくアルテナはクロエの胸に顔を埋めて寝てしまいました。
「本当にしかたありませんね……クスッ」

腕の中で気持ちよさそうに眠るアルテナの様子に、おかしさがこみ上げて来て思わず微笑んでしまいます。
クロエはアルテナを抱いたままベットに腰掛けて、愛しい慈母のやすらかな寝顔を眺め続けるのでした。




『クロエの朝』


荘園に朝日が昇りクロエの部屋に窓から光が差し込む。
カーテン越しの明るさに朝の到来を感じてクロエはまぶたを開く。

起きたばかりで意識が確かでないのか、ふにふにと目の辺りを擦っている。
それもつかの間のことで、クロエはベットを降りてまず最初に顔を洗って意識を覚醒させた。
そのあとに食堂で朝食の用意をするのがクロエの日課となっていた。
食卓に白いテーブルクロスを敷いて、食器棚からティーセットを出して紅茶と朝食を作りはじめる。
お茶と食事の用意が整え終わったクロエは椅子に座って淹れたての紅茶を一口すする。

「うん、今日もおいしい」

パリを訪れた時に霧香の淹れてくれた紅茶が美味しかったのでクロエも荘園で紅茶を淹れるようになった。
クロエは嬉しげに自身の作品を味わう。
カップをソーサーに戻したクロエは「ふぅ……」となぜかため息をついた。
その理由は……

「今日もアルテナは寝坊ですか……」

クロエの前にはアルテナ用のティーセットが並べられている。
しかしそれを使うべき本人がそこにいないのでは単なるテーブルの飾りでしかない。
あまり気が進まないが、いつまでも放っておくわけにはいかない。
クロエが行かなければ、アルテナはベットの中という小さくも暖かな世界の眠り姫となって、
ここぞとばかりに昼を過ぎるまで寝るに違いない。
クロエ一人の働きで荘園を維持が出来るならそれでも良いだろうが、ここはそれなりに広い。
とてもではないがノワールとなるための修行もしなくてはならないクロエには荷が重い。
こまめに建物や畑の面倒をみないと、荘園は時の流れに取り残されたまま風化して跡形もなくなってしまう。
なんとしても寝坊常習犯のアルテナに起きてもらわなければ。
すっかり朝を迎える用意が出来ているテーブルをあとにしてクロエはアルテナの寝室へと向かった。

クロエは廊下を歩きながらつぶやく。

「荘園が無くなって、若い身空で野宿生活を送るのはイヤですから」

アルテナの部屋にたどり着いたクロエは扉の前に立つ。

「す〜……は〜」

これから深い眠りに堕ちた慈母を起こすという難事に対して心構えの深呼吸をする。

「よし!」

心の準備が完了したクロエは戸に手をかける。古びた蝶番が小さく音をたてながら開かれた。
寝室に入ったクロエはまず毛布にくるまって夢の世界を漂う部屋の主を確認した。
その後目覚まし時計を見る……案の定ベルが止められている。

「やっぱり……はぁ……」

期待はしてなかったが、予想通りの現実に直面すると、どうしても嘆息してしまうクロエだった。
だからといって自分の任務を放棄するようなことはしない。
気を取り直してアルテナを眠りから覚ますことにしよう。

緊張感のかけらもないベット際の攻防の幕開け……

「おはようアルテナ、朝ですよ、起きてください」

クロエとアルテナのいつもの朝がはじまる。




『アルテナとクロエの荘園の朝〜後日談〜


アルテナ

クロエ


アルテナ

クロエ

アルテナ

クロエ

アルテナ

クロエ


アルテナ

クロエ

アルテナ

クロエ
「あの、クロエ、朝に起こしてくれるのは嬉しいのですが、毛布を剥ぎ取るのだけは許してもらえませんか」

「私はアルテナの為と思ってやっているのです。
 もし毎朝寒い思いをしたくないのであればちゃんと自分で起きてください」

「そんな、低血圧の私に朝起きれるはずはありません」

「起きれるはずはありません、と断言されても困るのですが……」(汗)

「でも……でももっと優しく起こしてください」(必死)

「十分優しいじゃないですか、これ以上どうしろと言うのですか」

「だって……」

「普段はともかくとして、すくなくとも朝のことに関しては私の言う通りにして下さい。
 もし聞けないというのであれば……」

「も、もし聞けないなら?」(汗)

「毎朝ぎゅ〜っと抱きしめてキスしちゃいます」

「!!」(赤面)

「そんな事にならないようにちゃんと起きて下さいね、
 それじゃあ私は葡萄畑の世話をしに行きます」(トコトコトコ……)


一人取り残された頬を染めたアルテナさんのこんな一言。


アルテナ
「……いいかも……」(ぽそっ)




『アルテナとマレンヌの荘園の朝』


慈母と処女たちの住む荘園に朝日が昇ります。

リリリリリッ!

マレンヌの寝室に日が差し込み、朝を知らせる時計の音が響き渡ります。

「う、うーん……」

ごそごそ……

べっとからスウッと白い腕が伸び出てきました。

バシッ!

「ふう……もう少しだけ……すやすや」

目覚ましがなったというのにマレンヌは起きません。
枕もとの時計を弾き飛ばして布団の中に潜ってしまいました。

「すぅ〜すぅ〜……むにゃむにゃ……」

布団の中で二度寝を楽しんでいます。

「おはようマレンヌ、朝ですよ起きてください」

布団の中で丸くなっているマレンヌを迎えにアルテナが来ました。

「……むにゃむにゃ……」

アルテナの声にまったく反応することなく眠り続けています。
アルテナはマレンヌを起こそうともう一度声を掛けます。

「もう日が昇っていますよ、そろそろ起きなさい」

「……むにゃむにゃ……あなたの方から告白してくれるなんて嬉しい……私もアルテナが大好き」

「なっ!?」

マレンヌの寝言にアルテナは驚きます。
朝の澄んだ空気が一瞬にして冷たくなりました。ぬくぬくとしたマレンヌのお布団の中とは別世界です。

「あ、アルテナってば、こんなところで服を脱いで……そんなに私と……ドキドキ」

きっと楽しい夢を見ているのでしょう。
マレンヌは寝ているとは思えないほどニコニコと笑みを浮かべています。

「……それはいつもあなたがしていることでしょう……」(怒)

アルテナはあまり楽しそうではありません。額にちょっと青筋がたってますし……
これ以上勝手な夢の内容を口走らない内にさっさと起こしてしまおうとマレンヌの布団を剥ぎ取ってしまう事にしました。

「……せーの!」

「す〜す〜……あっ!アルテナ!私の服を無理矢理剥ぎ取るなんて!……ワクワク」

「無理矢理!?」

マレンヌはまだ夢の国の住人のようです。

「この子は一体どんな夢を……それはともかくとして……」

今度はマレンヌの肩を直接揺さぶってみます。

「むにゃむにゃ……私はアルテナの望むことは何でもするから……さあ来て!」

肩に触れたアルテナの腕を握り自分のベットに引き倒します。

「ち、ちょっとマレンヌ」

アルテナを抱きしめてマレンヌはご満悦のようです。

「好きだよアルテナ!……(ボコッ!)……きゅう……」

「いい加減にしましょうね」(ニコ)

汗をにじませハアハアと息を切らせるアルテナの手には釘とかボコボコにはえたえげつない棍棒が……
一応マレンヌの妄想を止める事は出来たようですが……本来の目的が……

「朝食の用意は済んでいますから早く来てくださいね」

爽やかな朝に相応しい微笑みを熟睡ではなく完全に気を失ったマレンヌに贈り、アルテナは部屋を出て行きました。



荘園に朝がやって来ました。


でも……


マレンヌの朝はまだ来ません。




『ボルヌとマレンヌの荘園の朝』


慈母と処女たちの住む荘園に朝日が昇ります。

リリリリリッ!

マレンヌの寝室に日が差し込み、朝を知らせる時計の音が響き渡ります。

「う、う〜ん」

ごそごそ……

ベットからスウッと大きな剣が伸び出てきました。

ドカッ!ガシャーン

「ふう……もう少しだけ……すやすや」

目覚ましがなったというのにマレンヌは起きません。
机の上の時計を剣で叩き壊して布団の中に潜ってしまいました。

布団の中で丸くなっているマレンヌはぬくぬくと二度寝を楽しんでいます。

「ああ!また!」

すごい音にボルヌがマレンヌの部屋に飛んできました。

「なぜあなたは机ごと時計を粉砕してしまうのですか!」

「……むにゃむにゃ……」

ボルヌの声にまったく反応することなく眠り続けています。
アルテナはマレンヌを起こそうともう一度声を掛けます。

「ソルダの経費も余裕があるわけではないんです……こら!寝てる場合じゃありません。起きなさいマレンヌ」

「う〜ん……むみゃむにゃ……アルテにゃ〜スキスキ〜……」

なにやら幸せな夢を見ているようです……きっとアルテナにとっては悪夢なのでしょう。

ピク……

あ、ボルヌの額がピクピクしています。危険な兆候です。
布団にもぐって寝ていたマレンヌもさすがに強烈な気を感じて目を覚まします

「……なんだ……ボルヌか……アルテナなら良かったのに……ぐう、ぐう」

でも……また寝てしまいました……

「あ、アルテナ、ダメ、そんなとこ……くすぐったい……ああんっ」

マレンヌは妖しい寝言を発しています。

「夢の中とはいえ、私のアルテナにナニをしているんですか」(怒)

さりげなく大胆な発言のボルヌです。

「……アルテナのここって……敏感なのね……ふふふっ……ぐう、ぐう……」

「……あなたがそういう態度ならわたしにも考えがあります」

そう静かに言ったボルヌはおもむろに惰眠をむさぼるマレンヌのベットの端に手を掛けました。

「たとえ夢の中でもアルテナがマレンヌに汚されるのは何としても防がなければ……」

大切なアルテナを守るためにマレンヌの不埒な妄想を止めなければなりません。

「さっさと起きんか!このネボスケ!」

ボルヌのその細い腕の何処にそんな力があるのか分かりませんが、ベットをマレンヌごとひっくり返します。
普段マレンヌが振り回している剣を持ち上げるのにも一苦労しているはずなのに……

ガシャ〜ン!!

「うわぁあぁ!!?」

眠るマレンヌをのせたままひっくり返ったベットが壊れてしまいました。
そういえばさっき経費がどうとか、言っていたような気が……

「あら私としたことが、はしたない……ホホホッ」

ボルヌは口元に手を当て、上品な仕草で笑っています。

「……きゅう……」

「あ、ベットはあなたが修理して置いてくださいね。ソルダも何かと物入りで財政が苦しいので♪」

とりあえずアルテナの貞操を守る事は出来たようですが……マレンヌを起こすどころか気絶させてしまっては本来の目的が……

「そうだ、これを言いに来たんでした……」

何かを思い出してポンと両手を合わせるボルヌ、その仕草はあくまで上品です。

「朝食の用意は済んでいますから早く来てくださいね」

「……ぷしゅう……」

壊れたベットの下敷きになって完全に気を失ったマレンヌにボルヌの言葉は届くのでしょうか……
完全に気を失ったマレンヌにむかってボルヌは微笑んでから部屋を出て行きました。


荘園に朝がやってきました。


でも……


マレンヌの朝は今日もまだ来ないようです。




『キリカとマレンヌの荘園の朝』


慈母と処女たちの住む荘園に朝日が昇ります。

リリリリリッ!

マレンヌの寝室に日が差し込み、朝を知らせる時計の音が響き渡ります。

「う、う〜ん」

ごそごそ……

ベットからスウッと白い腕が伸び出てきました。

ぷちっ!

「ふう……もう少しだけ……すや、すや……」

目覚ましがなったというのにマレンヌは起きません。
机の上の時計を止めて布団の中に潜ってしまいました。
布団の中で丸くなっているマレンヌはぬくぬくと二度寝を楽しんでいます。

「もう朝だよ、起きてマレンヌ」

布団の中で丸くなっているマレンヌをキリカが迎えに来ました。

「ぐう、ぐう……」

マレンヌにキリカの声は届いていないようです。
惰眠をむさぼるマレンヌを見つめていたキリカがおもむろに銃を取り出します。

「早く起きて……」

そう言ってキリカは無造作に愛銃の引き金を引きました。

バンバンバンバンッ!!

空気を切り裂いて飛来する弾丸がマレンヌの頬のほんの数ミリ脇をかすめ、枕に次々と小さな黒い穴を作っていきます。

「うわあああ!?」

突然の襲撃にマレンヌは何が起こったか分からないまま跳ね起きます。

バンバンバンバンッ!

キリカは起き上がってあたふたとしているマレンヌへの直撃をたくみに避けて銃撃を続けています。
なかなか容赦がないですね。

「あわわわわっ!」

あわてたマレンヌはとうとうベットからころげ落ちてしまいました。
身体中を汗だくにしてマレンヌは床にへたり込んでいます。
そのうしろでは枕の穴から煙が立ち昇っています。

「な、なにを……」

マレンヌは自分の心臓が動いている事を確認するように胸元に手を当てながらキリカを見上げています。

「朝食、出来てるから……」

「起こすだけで人を撃たないでよ!寿命が縮むじゃない!」

「みんながもう待ってるから起きてもらわないと」

キリカがマレンヌを起こしに行っているその時、食堂でクロエとアルテナとボルヌが席について待っています。

「あの……アルテナ、何か銃声が聞こえたんですけど……」

キリカがどんな起こし方をしたのかクロエは気になります。

「気にしなくても良いですよ、マレンヌにはアレくらいでちょうどいいのです」

寝室で何が起こったのか正確に把握しているアルテナは悠然としています。ボルヌもうんうんと頷いています。

「はあ、そうですか」

アルテナに気にしなくて良いといわれてはそれ以上追求する事も出来ません。
人を起こす為に発砲するという事にクロエは釈然としないながらもあいまいに返事をするだけです。

食堂でアルテナとクロエがそんな会話をしている内にキリカは着々と任務を遂行中です。

「それじゃあ先に行ってる……もしまた寝たら……」

キリカの鋭い眼光に危険を察知したマレンヌは素直に首を縦に振ります。

「は、はい……」(コクコク)

キリカは自分の使命を果した事を確認して満足げにその場を立ち去りました。

「……明日からはちゃんと起きよう……」

硝煙と布の焦げた匂いがたちこめた部屋に取り残されたマレンヌはそう決心しました。   


荘園に爽やかな朝がやって来ました。

マレンヌも何とか無事に朝を迎えることが出来たようです。




『キリカとクロエの荘園の朝』


慈母と処女たちの住む荘園に朝日が昇ります。

チュンチュン……

クロエの寝室に日が差し込み、朝を知らせる鳥のさえずりが響き渡ります。

「ん……」

朝が来たというのにクロエは起きません。
身をよじって毛布をかぶり直して寝てしまいました。
珍しくクロエは寝坊のようです。

「朝だよ、クロエ」

布団の中で丸くなっているクロエを迎えにキリカが来ました。
いつもは冷たさすら感じさせるキリカの声ですが、今はとても穏やかにクロエに語りかけます。

「……すや、すや」

クロエは気持ち良さそうに寝ています。

「起きてよ」

「く〜、く〜……」

キリカは何度か声を掛けますがクロエは眠り続けています。

「ねえ……」

キリカは毛布からちょっとだけ出たクロエの顔に手で触ります。
すると突然毛布の横から伸びてきた手にキリカは腕を掴まれてしまいます。

「な、なんだ?」

キリカが驚いていると、そのままクロエのベットへと引き込まれてしまいました。

「ふふ、キリカの匂いだ〜」

クロエはキリカの髪に顔を近づけてくんくんと鼻を鳴らします。

「なんだ起きてるんじゃないか、て放してくれないかな」

「もう少しだけ……」

キリカが身を起こそうとするとクロエがギュッと抱きついて起きられません。

「そっちがその気なら……」

負けじとキリカもクロエの髪に顔を近づけてその匂いをかぎます。

「クロエの匂いがする……」

長い荘園の生活で刻まれた微かな葡萄の香るクロエの髪の匂いがキリカは大好きです。
二人はしばらくの間お互いの匂いを胸いっぱいに広げています。
キリカに抱きつかれてクロエは幸福感に心を躍らせています。


「……そろそろ行かないと……みんなが待ってるから」

「え〜?……」

せっかくキリカと触れ合えてるのに……

クロエは名残惜しそうにキリカを見ました。

「わかりました。ではキスをしてくれたら起きます……」

この幸せな時を終わらせる代わりにもっと幸せな気持ちにして下さい。とクロエはお願いします。
クロエは目を閉じて唇をキリカに向かってくいっと上向けます。

「……しかたないな、今日だけだよ」

いくらか迷っていたようですがキリカはキスをすることに決めました。。
キリカはクロエの両肩に手を置いてそっと近づきます。

ちゅっ……

クロエの頬にキスをしました。

「あ……」

てっきり唇にキスしてくれるものと思っていたクロエは思わず声が出てしまいます。

「はい、キスはしたからね、これでおしまい」

「ずるいです」

キリカに瞳を覗き込まれてクロエは思わず顔を赤らめてしまいました。
ベットの上でペタリと座ったままクロエは甘えた声で抗議します。

「ふふっ、じゃあ先に行ってるからね。また寝ちゃダメだよ」

キリカはもう一度クロエの頬にキスをして笑いながら寝室を後にしました。

「もうっ」

クロエは頬を膨らませ枕をポンッと叩きました。


暖かな陽射しと鳥のさえずりが荘園に朝を告げています。

また明日も寝坊しようかな。

キリカにキスをされた頬を指で押さえながらクロエはそんなことを思うのでした。




『クロエとマレンヌの荘園の朝』


慈母と処女たちの住む荘園に朝日が昇ります。

リリリリリッ!

マレンヌの寝室に日が差し込み、朝を知らせる時計の音が響き渡ります。

「う、う〜ん」

ごそごそ……

ベットからスウッと白い腕が伸び出てきました。

ぷちっ!

「ふう……うるさいな〜あと五分だけ……」

目覚ましがなったというのにマレンヌは起きません。
机の上の時計を止めて布団に潜ってしまいました。

「ぐう、ぐう、すぴ〜……」

マレンヌはぬくぬくと二度寝を楽しんでいます。

「マレンヌ、朝ですよ 起きてください」

布団の中で丸くなっているマレンヌを迎えにクロエが来ました。
クロエがマレンヌの肩を軽く肩を揺すって起こしに掛かります。

「う〜んもう少しだけ……」

夢見心地のマレンヌはむにゃむにゃと半分寝たまま答えています。

「もう朝食の用意は出来てます。みんなも待ってますよ」

クロエはあきらめずに再びマレンヌを起こそうと声を掛けます。
その仕草はあくまでソフトです。

「ふわあ……おはよう〜」

やがてマレンヌはゆっくりと目を開けます。そして何を思ったかクロエに抱きつきました。

「きゃっ」

クロエは可愛らしい悲鳴を上げてしまいました。

「突然抱きつくなんて、なんですか……」

「あなただけよ〜私を優しく起こしてくれるのは」

マレンヌはそう言いながらクロエの胸に顔をすり寄せます。

「あっ!やめてください……私は霧香とアルテナのものなのですから」

さりげなく大胆発言のクロエです

「ああ、とてもいい感触〜マシュマロみたい」

クロエの言葉も効き目がありません。マレンヌはなおもスリスリとクロエの胸に顔を埋めています。

「お願いですから、もうそろそろ放してください」

「やだ」

駄々をこねる子供のようなマレンヌです。

ゾクッ……

「な、なに……この寒気は?」

クロエに抱きついていたマレンヌの背筋に悪寒が走りました。
その恐ろしい気配の元を確めようとマレンヌが振り返ると部屋の入り口にアルテナとキリカが立っていました。

「私の可愛いクロエに何をしているのです」

アルテナは笑顔でマレンヌに聞ききました。
マレンヌはクロエに抱きついたまま凍りついています。
アルテナやキリカだってこんなことはめったに出来ません。
こんな風に抱きつけるなんて務めから帰ってきた時のお迎えやお散歩をした時のお昼寝くらいです。

「それを、よくもこのようなことが出来るのもです」

アルテナのさっきまでの笑顔が急速に曇りはじめました。
冷静沈着なアルテナにはめずらしくお怒りを隠せない様子です。

「あう、あう」

マレンヌはただあせるばかりで言葉がでません。

ちゃき……

それまで沈黙していたキリカが銃を構えます。

「ちょ、ちょっと冗談でしょう?や、やだなあキリカったら銃なんか向けて……」

「不埒者には正しい復讐を……」

「た、助けてよクロエ」

マレンヌはクロエに縋り付いて助けを請います。

「知りません」

無情にもクロエはぷいっとそっぽを向いてしまいます。

「そ、そんな〜」

マレンヌはいまにも泣きだしそうです。

「この場所で、あなたが死ぬのも……」

キリカがマレンヌに死の宣告をします……でもそれはクロエのセリフだったような気が……

「いわば、運命…………さようなら、マレンヌ」

アルテナがセリフの後半を引き継ぎました。

「ああ、あんなことしなければよかった……」

クロエにちょっかいを出した事を後悔しながらマレンヌは背後より迫る強大な死の圧力にひたすら脅えまくっています。


荘園に朝が来ました。

でも。

マレンヌの朝は無事にやってくるのでしょうか。




『アルテナとキリカの荘園の朝』


太陽が大地を照らし慈母と処女たちの住む荘園に朝が訪れました。
アルテナの寝室にも暖かな朝光が差し込んでいます。

「すやすや……」

でも朝に弱いアルテナはやっぱり寝坊です。

「朝だよ。アルテナ」

キリカがいまだベットで安眠中のアルテナを起こしに来ました。
アルテナの肩を揺すって起こそうとします。

「ん……んん」

ふぁ……とアルテナはむずがゆそうにちょっとだけ顔をしかめ、あくびをしてまた寝てしまいました。

「どうして朝のアルテナはこうも無防備なんだ?」

寝ているアルテナを見下ろしながらキリカは不思議に思いました。
キリカは何となくベットの脇に座ってアルテナの寝顔を眺めています。

「こんなところで襲われたらひとたまりないよ」

「すぅ……すぅ」

安心しきった表情でアルテナは寝ています。

「もしかして、ここにいるのが私だからこんなに風に寝てるられるのか?」

実際の所、たんにねぼすけなだけかもしれませんが愛する処女たちの前ではアルテナは警戒心が緩んでしまうという事もあります。

「こうしてアルテナの寝顔を見続けるのも良いんだけど……起きてもらわないとクロエをいつまでも待たせてしまうし」

キリカはすやすやと寝息をたてるアルテナの頬を人差し指でつつ〜となぞりました。

「ん、んん……おはよう……キリカ……」

指の感触に目を覚ましたアルテナはようやく朝のご挨拶です。

「おはようアルテナ」

キリカも朝のご挨拶。

「おやすみなさい……」

アルテナの就寝のご挨拶です……

「おやすみなさいじゃなくて起きてよ!」

「す〜……す〜」

アルテナはパタッと布団に沈み込んで再び夢と希望と安眠の世界へと旅立ってしまいした。
キリカの目覚まし声にもめげずにアルテナは背を向けて寝続けます。

「もう、しょうがないな……」

気持ちよく寝ているアルテナを強引に起こすのも気が引けるのでどうしたものかとキリカは悩んでいます。

「う、ん……」

思案しているとアルテナが寝返りを打ち、キリカに体の正面を向けました。
アルテナの寝顔はとても可愛らしい、とキリカは思いました。

「……アルテナ、本当に綺麗だな」

キリカはアルテナの顔をもっとよく見ようと近づきます。
アルテナの寝息がふわあっと届きキリカの髪が少しだけ揺れます。
ほんの数センチ先でアルテナが寝息を立てている。そんな状況になぜかキリカは胸が高鳴りはじめます。

「アルテナの唇、柔らかそう……」

キリカは吸い込まれるようにアルテナの唇から視線を外せなくなってしまいました。

「……クロエも膝枕をしてもったり、抱きついたりしてるし……だから私も……」

何をしようというのでしょうか、キリカは誰に聞かせるでもない言い訳をしてます。

「い、一度だけ……お願いだから起きないで……一度だけだから」


さっきまでアルテナを起こそうと一生懸命だったのに今度は寝ていて欲しいみたいです。
キリカはアルテナの唇に自分の唇を寄せます。

ちゅっ……キリカはアルテナにそっと唇を重ねました。

とうとうしちゃった……キリカの心に少しの罪悪感と嬉しさが入り混じっています。
アルテナの唇から伝わる体温と柔らかな感触にキリカの胸はドキドキが止まりません。
長い長いキスをしていると唐突にアルテナがぱちっと瞼を開きました。
当然無断でアルテナに唇を重ねているキリカと目が合います。

「……」

「……わっ!」

しばしの沈黙のあとキリカはあわてて唇を離しアルテナから離れます。

「なぜこのようなことをしたのですか」

キリカのあわて具合と対照的にアルテナは落ち着いた様子で訊ねます。

「あ、あの、これはその……」

キリカはしどろもどろでキスの理由をうまく話せません。
アルテナはそんなキリカの様子をなぜか楽しそうに見ています。

あまりいじめるのもかわいそうですね。

アルテナはそう思いキリカに助け舟を出す事にしました。

「わかっていますよ、あなたは親愛の情を示したかったんですね」

「う、うん」

キリカはうなずきます。

「でも寝ている相手にキスをするのはいけません」

アルテナはキリカをたしなめつつも嬉しそうです。

「う…………ごめんなさい」

自分の非を認めたキリカは素直にあやまります。

「よろしい」

アルテナはベットを降りてキリカを抱き寄せ頬に手を添えました。

「これは私からのお返しです」

「え?……」

ちゅっ……アルテナは困惑しているキリカの頬にキスをしました。
おもいもよらぬアルテナのお返しにキリカは顔を真っ赤にしています。

「今度からキスをするときは私が起きている時にお願いしますね」

アルテナは悪戯っぽい笑みを浮かべてキリカを見つめています。
キリカは頬が赤く染まった顔を見られるのが恥ずかしくて下を向いてしまいました。
キリカが黙りこくっている間にアルテナは髪を結い、身支度を整えます。

「さあ行きますよ。クロエも待ちくたびれているでしょう」

「う、うん」

いまだ恥ずかしがっているキリカの手をアルテナは自然な仕草で握りしめます。
キリカはアルテナの手のぬくもりを感じているうちにだんだん気持ちが落ち着いてきます。

「行きましょう、私の愛しいキリカ」

アルテナは穏やかな微笑みをキリカに差し向けました。

「うん」

キリカも笑顔で答え手を握り返します。


太陽が大地を照らし慈母と処女たちの住む荘園に朝が訪れました。

アルテナとキリカにはいつもよりドキドキな朝です。

キリカがアルテナに手を引かれて食堂に来たのを見てクロエがちょっぴりやきもちを焼いたとか。




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雪風さんよりSS「荘園の朝」シリーズを頂きました。
『アルテナとクロエの荘園の朝』は既にサイトで展示させて頂いているSSです。
『クロエの朝』と『アルテナとクロエの荘園の朝〜後日談〜』はその前後章、
『アルテナとマレンヌの荘園の朝』と『ボルヌとマレンヌの荘園の朝』は
それぞれ眠るマレンヌと起こしに来るアルテナとボルヌのお話です。

アルテナ「クロエは……(毎朝起こしに来てくれるので)優しいけれど、(毛布を毎回剥ぎ取ってしまうので)厳しいのです……」
低血圧で朝が弱いアルテナと即答「駄目です」の決然クロエ。クロエ、慣れてますね(笑
荘園で爽やかな朝を迎えるクロエ。しかし食事の傍らに慈母はまだ居ない。アルテナを毎朝起こしに行かねばならぬクロエの静かな決意。
そして「起きぬなら キスしてしまおう お寝坊さん」になぜか期待するアルテナ(何故そこで「いいかも」ですか(笑))。
「アルテナとクロエの荘園の朝」とその前後章、慈母と刺客の微妙な力関係が伺えます。

そして……マレンヌに朝は来ないのでしょうか? とても心地よい夢を見ているマレンヌにアルテナもボルヌも容赦なし?
マレンヌの夢の中ででも自身を守らねばならぬアルテナ。マレンヌの夢の中ででもアルテナを守らねばならぬボルヌ。
ちょっとマレンヌの夢劇場を見てみたいという気もします。
どうかマレンヌに爽やかな朝が来ますように(笑

荘園の朝は全ての者の力関係が揺らぐ不思議な時間帯なのでしょうか。

それぞれの者たちがそれぞれの場面で取る言動は少しづつ異なるようです。
対となったシリーズものはとても楽しいですね。
雪風さん、このたびもほのぼのとした素敵な萌えSSをどうもありがとうございました。

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雪風さんに新たに『キリカとマレンヌの荘園の朝』『キリカとクロエの荘園の朝』『クロエとマレンヌの荘園の朝』を頂きました。
キリカ、同じ起こすにしても、マレンヌとクロエでは全く態度が違うのが謎です(笑
キリカ、マレンヌにおいては硝煙の匂い。
キリカ、クロエにおいては葡萄の匂い。
頑張れマレンヌ! 防弾チョッキをパジャマ代わりにしている場合じゃないぞ!(笑
そしてお怒りのアルテナとキリカの前に風前の灯火のマレンヌさん。
クロエを護るアルテナとキリカという図が新鮮です。
アルテナとキリカの二人はクロエに色々振り回されながらも、やっぱりクロエが大好きなのですね。
部外者(この場合マレンヌ)には厳しい。やはりこれも愛の形の一つなのでしょうか。

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雪風さんに新たに『アルテナとキリカの荘園の朝』を頂きました。
キ、キス……
どきどきですね。むしろ心臓ばっくんばっくんですね(笑
眠っているアルテナの無防備な顔に、そしてくちびるに吸い寄せられていくキリカさん。
それにしてもアルテナ、キスされてなぜに余裕?
目をつぶっている時にキリカが自分の顔をまじまじと見ている事は感じ取っていて、何かするかも〜とは思っていても、
まさかキリカがくちびるにキスしてくるとは少しは驚きなはずなのに……はっ!まさか全てはアルテナの予想通り!?
キスされて余裕なアルテナと自分からキスしておいてどきまぎするキリカが対照的で良いですね。
そしてアルテナの逆襲。アルテナ、直球すぎます(笑
そして……「起きている時ならいつでもいいのですか?」という問いは可ですか不可ですか?(笑
手を繋いでいるうちに気持ちが落ち着いていくキリカさんも可愛いです。
朝のひと時の、アルテナとキリカのひそやかな暖かい交歓。幸せなひと時です。
雪風さん、このたびもどきどきな萌えSSを贈って頂き、どうもありがとうございました。


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