アルテナは歌う。


私の愛しいあなた達


美しい声を荘園の風に乗せてアルテナは歌う。


荘園は私たちの故郷

あなた達は私のそばにいてくれますか

私の声が聴こえますか

私の歌が聴こえますか


澄んだ荘園の空に向かい愛する二人の子達への想いを歌う。 

「……!」

アルテナは人の気配を感じ取り歌を止めて振り返る。
その視線の先には仲良く並んで楽しそうにアルテナを見つめるキリカとクロエがいた。

「アルテナ!」

自分達がここにいることに気づいてくれた事がわかったキリカとクロエはアルテナのそばに駆け寄る。

「二人とも、どうしたのですか」

「アルテナの歌が聞こえたから寄ってみました」

「うん、とても綺麗な歌声だった」

アルテナの歌を聴いていたキリカとクロエの瞳には感動の色が浮んでいた。

「ふふっ、ありがとう」

アルテナが微笑んでくれたことに二人はとても嬉しい気持ちになった。
クロエはアルテナに右半身に、キリカはアルテナの背中から身を寄せてピタリと抱きつく。
キリカとクロエはお母さんに甘えるようにアルテナに擦り寄っている。

「ねえ、アルテナ……」

「こんなに甘えて、どうしたのクロエ、それにキリカまで……」

「私たちは家族なんですよね……これからもずっと荘園で一緒に居ていいですか」

クロエはアルテナの瞳を見上げて尋ねる。
美しいけど家族の絆を確めるような歌を聴いて、もしかしたらアルテナは寂しいのかも、キリカとクロエはそう思った。

「急にそんなことを聞くなんて、本当にどうしたんですか」

アルテナは肩に掛かるクロエの腕に手を重ねてそっと抱き寄せる。

「私も一緒に居たい」

表情は乏しいけれどキリカは一生懸命アルテナに頬を寄せてぬくもりを伝えようとしている。
アルテナはキリカの柔らかなの頬に手を添えて自分の頬に近づけた。
三人の肌と髪が触れ合いとても心地良い。

「キリカもクロエもずっと一緒ですよ……私たちは家族なのだから」

「アルテナの歌をもっと聞かせてほしい」

キリカが母親に甘えるようにアルテナの歌をねだる。

「そうですね……私だけじゃなくて三人で歌いましょうか」

一人で歌う気恥ずかしさもあったアルテナは二人を誘う。

「うん!」

キリカとクロエは喜んでアルテナの誘いを受け入れる返事をした。



ゆったりと時が流れる荘園に、慈愛を感じさせるアルテナの歌が聞こえてくる、
そこに軽やかな処女たちの歌声があとを追う。


慈母は歌う。


私の愛しいあなた達

一人で帰る道も さみしくはないよ

だって私が帰る家は あなた達が待っててくれる家だから

私の声が聴こえますか 私の歌が聴こえますか

私はいつでもあなた達のそばにいます

あなた達は私のそばにいてくれますか


処女たちは歌う。


私達の愛しいあなた

一人で帰る道は きっと楽しい帰り道

だってあなたが帰る家は 私達が待ってる家だから

あなたの声が聴こえます あなたの歌が聴こえます

私達はいつでもあなたのそばにいます

いつでもあなたを護ります


澄んだ声を荘園の風に乗せて家族は愛を歌い続ける。





慈母と処女たちのそれぞれの思いの歌が終わりを迎えた。
 
「そろそろ帰りましょうか」

アルテナが帰宅を促す。

「はい」

「うん……アルテナ、あの……手を握ってもいい?」

キリカはおずおずと尋ねた。

「ふふ、いいですよ」

「あ、キリカだけずるいです。私も手を繋ぎます」

「はいはい」

アルテナは笑ってキリカとクロエの手を握ってあげた。
三人は手を繋いで館への帰り道を行く。
歩きなれたこの道も三人並んで歩くと何だか楽しい散歩道のようだった。
 
三人はやがて家へとたどり着く。

「あ、アルテナちょっと待っててください」

玄関の手前でキリカとクロエは手を放して走り出した。

「どうしたのでしょう」

おいてきぼりになるアルテナが首を傾げている内に二人は階段を上って立ち止まり振り向いた。

「もうこっちに来ていいよ」

「はやくはやく」

用意は整ったという風にキリカ達は手招きをしてアルテナを呼んでいる。
アルテナは楽しそうに自分を見つめる二人が何をしたいのかを察して嬉しくなり明るく返事をする。

「ふふっ、いま行きますよ」

アルテナが入り口に差し掛かると二人はにこやかに母の帰宅を迎える。
 
「おかえりなさい。アルテナ」
 
「はい、ただいま」
 

アルテナは愛しい子供たちを抱き寄せて帰宅の挨拶をした。





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『歌う家族』    絵と歌詞:カモ、 文:雪風さん

雪風さんよりSS「歌う家族」を贈って頂きました。
私が以前描いた絵「家族」と「歌」からイメージを膨らませて二つを繋げたお話です。
一人歌うアルテナ。二人で歌うクロエとキリカ。一緒に歌う家族三人。
三人が互いを想う気持ちが溢れていてとても心暖まります。
最後の「おかえりなさい」を言うためにわざわざ一旦離れてから手招きするクロエとキリカと、
わかっていますとばかりに微笑んで向かうアルテナの情景も素敵です。
雪風さん、このたびも素晴らしいSSを贈って頂きどうもありがとうございました。

家族の一人が歌い始めると、なんとなはしに他の人もつられて歌いだし、いつのまにか大合唱。
子供時代にはこんな事がよくあったように思います。
アルテナもクロエも歌うのは大好きだと思うので(キリカは不得手でしょうが)、
荘園では時々彼女達の綺麗な歌声が響いているのでしょうね。
キリカもつられてぼそぼそ歌い出したらさらに素敵です(笑


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