『私はなんでもできる』 「私はなんでもできる。あなたと、アルテナのためならば」 第24話「暗黒回帰」でのクロエのキリカに向けられて発せられた言葉。 クロエの胸に秘められた真摯な想いの告白。 この言葉やその他から察する所の、クロエのアルテナへの想いがどのようなものだったかについてをお話ししたいと思います。 もちろん直接言われたキリカにとっては、それは天啓であったと思います。 自分にこのような事を言ってくれる人は初めてであり、自分に対してそこまで真摯であってくれる人も初めてです。 あなたのためならばなんでもできる。 キリカにはそれは今まで生きてきた人生の中で数少ない最も嬉しい瞬間の一つだったでしょう。 でも今まで自責の念の強すぎたキリカはそれを聞いて思わず翳ってしまう。 ですがそのキリカの想いについてはまたの機会にお話したいと思います。 クロエは「アルテナのためならばなんでもできる」とも言っているわけなのですが、それは一体どういう事なのか。 まずあるのは、アルテナの命じるどんなつとめも果たしてみせるというノワールとしての責務でしょう。 しかし、「アルテナのためならば」という言葉の響き、クロエがその言葉をキリカに言ったあの状況その他を鑑みると、 もう少し別なものも見えてきます。 簡単に言えば、クロエはクロエなりにアルテナを気づかい、心配していたと思います。 クロエは長い間アルテナと寝食を共にして暮らしてきている。 時々ではあるけれど、アルテナが遠くを見るようにぼーっとしたり、憂いや、とても悲しそうになったりする事を知っている。 それがなぜかはよく分からない。 でもアルテナがこちらを向いて落ち着いて相対している時に見せる顔以外の顔も知っている。 アルテナに声をかけたりしないでいれば、ぼーっとしている顔や、憂いの顔も見れてしまう。 ひとたび声をかければ、アルテナははっと振り向いてこちらを見て、こちらが笑えば、それを見てからやっとふっと微笑み、 それ以降は優しい微笑みを湛えてみせる。 そういうアルテナ……「クロエに見せたいとアルテナが意図している以外のアルテナ」も、クロエは知っていると思います。 それはクロエ自身の洞察力(その優れた洞察力、人間としての深みはなによりアルテナによってはぐくまれたもの)のおかげ でもありますし、なによりもクロエは子供の頃から10年近くもアルテナと一緒に暮らしているのですから。 クロエはアルテナのそういう一面……憂いや悲しみに沈むアルテナをなんとなくではあるけれど知っている。 そういうアルテナを、クロエはとても心配していると思うのです。 そしてアルテナが何を欲しているか何を望んでいるかという事も、なんとなくにではあっても感じてはいるのだと思います。 アルテナが望んでいるもの……それはもちろんまずはグラン・ルトゥール。ノワールの復活。 でもそれだけではない。例えばアルテナのスキンシップ好き、それをクロエはどのように捉えていたのでしょうか。 もちろんアルテナは「私、クロエのために」「私が心地よくなれるために」私を抱きしめ、キスをしてくれる。 だけどアルテナが荘園での生活の中でクロエとする様々な触れ合いは、「アルテナ自身のためにしたい事」である事も、 クロエは当然分かっているのだと思います。膝枕も、おかえりなさいのお出迎えも、おやすみのキスも、寝物語も……。 「アルテナはそれを私に行なうととても心地良さそうだ」という事を、クロエにはなんとなく分かっているのです。 それにもしアルテナが嫌がる事であったならば、クロエはどんなにしてほしい事であってもせがむ事はないでしょう。 クロエのためにしてくれる事は、とりもなおさずアルテナ自身のためでもある。アルテナ自身の心の安らぎのため……。 クロエはそういう事を分かっているから、安心してアルテナからのスキンシップを受け入れ、また、積極的にアルテナに 色々なスキンシップをおねだりするのだと思います。 (第20話「罪の中の罪」での「それは旧い旧い物語……」で始まるお話によってアルテナが暗くなってしまったのは、その お話の内容によってアルテナが自身の過去を思い出してしまって連動して気持ちが暗くなってしまったからであって、寝物語 そのものが嫌なのではないと思います。クロエのおでこにキスするアルテナはやや緊張気味ですがあれはあれでよし(笑)) そしてそんなアルテナが、今明示して語るには、「グラン・ルトゥールを実現させたい」「ノワールを復活させたい」。 クロエは、アルテナがグラン・ルトゥールについて触れる時、その顔には翳りがあり、憂いや悲しみの情緒が伴っているという 事を間近に見て感じ取っている。アルテナがなぜそのように翳るのかは、クロエにははっきりとは分からない。 でも実の母娘のように暮らしてきたアルテナの翳りの情緒を感じ取る事は、クロエにとっては我が身の事のように翳る事であり 悲しい事であると思います。 だから、アルテナがグラン・ルトゥールを望むならば、そのためにアルテナの命じるつとめの遂行が必要であるのならば、 そしてそのために私の力が必要であるのなら……アルテナが翳りと共に望むのであれば、そこまでのものであるならば……、 たとえその是非が私の知らないところのものであっても、そうしてあげよう。アルテナのためにそうして「あげよう」。 そんな気持ちがクロエにはあると思います。 もちろんクロエ自身の動機、幼い頃からの憧れであるキリカのようになりたい、キリカと並び称えられるノワールになりたい、 という事があるのは前提としてです。 キリカと共にノワールになりたい、という想いと並んで、「アルテナのためにそうしてあげたい」という、アルテナを思いやる想い がひそやかにあるのでないかと思います。 もしもそのような想いが少しもなかったのならば、あのような言い方には決してならないと思います。 そもそもあのような事をわざわざ言う必要もない。 クロエが、思い切ってキリカにひそかに告げるのは……何よりアルテナに直接そのようには言わないのは……、 アルテナに秘めているところのアルテナへの想いがあるからです。 だからこそ、「……あなたと、アルテナのためならば」と、アルテナの名が後ろにも来るのだと思います。 「アルテナのためならばなんでもできる」 クロエのその言葉を補完するならばこんな風になるのではないかと思います。 「私はアルテナのためならばなんでもできる。だからアルテナ、私はどんなつとめでも遂行します。 どんな厳しいつとめでも、私に課していいのですよ。私は必ず遂行して、生きてあなたの元に帰ってきます。 私はアルテナのためならばなんでもできる。だからアルテナ、私にもっと触れてくれていいのです。 どんな(こっ恥ずかしい)事でも要求していいのですよ。色々たくさん触れ合いましょう。私は大喜びであなたに抱きつきます」 アルテナも、言いたい事、したい事の全てをクロエ達に言っているわけではありません。 アルテナがキリカに向けて言う「私達は共にその使命に殉じる家族なのです」を補完すると、 「私達は共にその使命に殉じる家族なのです。 だからもっと一緒に居ましょう暮らしましょう。一緒にお食事して一緒にお風呂入って一緒に寝て……」 アルテナもこんな風に言いたいのだと思います。 クロエはクロエなりにアルテナを心配し、気づかい、思いやっていた。 だからこその「私はなんでもできる。あなたと、アルテナのためならば」。 アルテナが、クロエがその言葉をあの状況でキリカに発するのを聞いていれば……と思ってしまいます。 だからこそ、アルテナが色々したりされたりされちゃうシチュが大好きなのですが(笑 そう、クロエは「私はなんでもできる。あなたと、アルテナのためならば」をアルテナに直接は言わない。 たとえ言うにしても、あの決然とした口調では言わないのではないでしょうか。 「私は、あなたに愛されて幸せです」と震えて告白するクロエの心情については別の機会にお話ししたいですが、 クロエは、あの決然とした面持ちでの静かな告白を、アルテナには言わない。 それはなぜかというと、上記のように自分が「クロエに見せたいとアルテナが意図している以外のアルテナ」をそれなりに 知っていて、そんなアルテナを思いやっているという事をアルテナが知るという事は、 せっかく自分に対して意識しているらしいアルテナの努力をふいにしてしまうと思ったから。 また、アルテナが隠しておきたいと思っている事ならば、アルテナの繊細な心を強引に揺さぶってまでそうだと告げる事は、 アルテナを傷つける事になりかねないと思ったから。 もう少し時間が経って、キリカが一緒に荘園で暮らして、世話に勤しむアルテナと共にキリカを世話して癒してあげて、 キリカの心の融解と共にアルテナの心もまた融解して、クロエに対してもキリカに対してもアルテナがいつも素直に居られる ようになれば、そういう時期になれば、クロエはアルテナに今までそうだったよと告げてもいいと考えていたような気がして なりません。 だからクロエはアルテナには直接は言わない。でも、キリカはもろに喰らっていますね(笑 ふと思ったのですが、アルテナとキリカは、相手に対して直接的に自分の本当の想いを語る事はあまりしない気がします。 アルテナの「……その心地よさを受け入れなさい。……私達は共にその使命に殉じる家族なのです」は、 キリカに向けられたものであると同時に、クロエに向けられたものでもあるはず。 またキリカの「私は……罪びとです。罪を犯して生きてきた。家族なんて……」は、 クロエの件の「私はなんでもできる。あなたと、アルテナのためならば」の告白に向けられたものでもあるでしょう。 でも、直接は言わない。 クロエはアルテナとキリカに比べると、直球ど真ん中ストレート勝負が多いと思います。 そんなクロエが大好きです。もちろんどもったりもじもじしたりするクロエも大好きですが(笑 |