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『ララバイ』
私はそこにいた。
いつからそこにいたのか・・・それは私にも分からない。
ただ白い壁と天井と床の私が座っている椅子以外に何も無い部屋に・・・私はいた。
「アルテナの髪はいつ見ても綺麗です」
いつの間にかクロエが私の背後に立ち嬉しそうに髪を編んでくれている。
「私・・・アルテナとずっとこうしていたらとても幸せです」
「私もよクロエ」
その言葉を口から出して私はハッとする。
私の心情に何ら手を加える事無く発したその言葉に。
でも・・・心地良い。
そうだ。
自分の気持ちに何を気兼ねする事があるのだろうか。
私はクロエを、この子を愛しているのだから。
ふと、私の髪を通じて感じられたクロエの気配がまるで以前からそこにいなかったかのように消えた事に気付く。
「クロエ・・・?」
振り返り、そして立ち上がり見回してもクロエの姿は無い。
私はドアーに向かい歩き出した。
だが、ドアーのある壁は遥か果てにある。
歩いても歩いても近づかない。
いつの間にか周りも闇となる。
どのくらい歩いたのだろうか?
前に人影を見る。
早足で歩き前を進む人に「すいません」と声をかける。
振り向いた人物はマレンヌだ。
「クロエを知らない?」
「知らないわ」
私の問いにマレンヌはそう答えると再び前に進みだす。
「マレンヌ!」
振り向いた人物はボルヌに変わっていた。
「クロエを知らない?」
「知らないわ」
私の問いにボルヌもまたそう答えると再び前に歩み始める。
「ボルヌ!」
次に振り向いた人物は・・・オデットだった。
「クロエを知らない?」
「知ってるわ」
「何処にいるの?」
オデットの答えに私は喜び再び尋ねる。
「あなたが抱いてるじゃない」
気が付くと・・・私はクロエを抱いていた。
だけど・・・様子がおかしい。
私が抱きしめたクロエの頭は背後にのけぞっている。
その顔を私は見た。
驚きからか大きく見開かれた目。
そして大きく開かれた口から流れ出る血・・・。
クロエは・・・死んでいた。
「どうしたのクロエ!」
「どうしたのですって?」
私の叫びに眼の前のオデットの左手に現れたボルヌがそう私に告げる。
「あなたの手を御覧なさい」
オデットの右手に現われたマレンヌが告げる。
私は視線を落として私の手を眺めた。
握っていた。
血塗れのナイフを・・・。
私は悲鳴を上げた。
目が覚めた。
頬を涙がつたっていた。
仄かな明かりを感じて上体をベッドから起こす。
眼の前にクロエが明かりの灯った燭台を持って心配そうにこちらを見ている。
「アルテナ・・・大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。 クロエ・・・。 何でも・・・無いから・・・」
そう言いながらも私の涙は止まらない。
この子が生きてくれている。
そう思うだけで涙は頬をつたう。
クロエが燭台を傍らの机に置き、私のベッドに座っておもむろに私を抱きしめた。
「私・・・昔よく恐い夢を見ました。 そんな時、アルテナはいつもこうやって私を抱き締めてくれました。
そうしてくれたら不思議にいつも穏やかに眠れました」
そう言いながらクロエが私に微笑みかける。
「アルテナは・・・今日恐い夢を見たのですね。 でも大丈夫です。 私がずっとこうしていてあげますから・・・」
違うの・・・違うのよ・・・クロエ。
私はクロエに優しく抱き留められながら子供のように涙を流し続けた。
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○管理人のコメント
銀光さんから私の絵「ララバイ」の別説SS『ララバイ』を頂きました。
このSSは時系列では本編中ですね。
夜に夢にうなされるアルテナ、それを抱き留めるクロエ…
本編では語られることはありませんでしたが、このような情景もあったのかもしれません。
悲しいお話ですが、とてもきれいでよいですね。
「ララバイ」の絵につけた私のSSは最終回以降のアルテナとクロエのお話ですが、
銀光さんのこのSSの続きとして私のSSに進むと、
悲しい涙が嬉しい涙に変わるので、布石としても銀光さんのSSがかなりグーに感じられます。
アルテナには幸せになってほしいです。もちろん、クロエにも、キリカにも。
銀光さん、このたびは素敵な作品をどうもありがとうございました。
私の絵「ララバイ」はこちら
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