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荘園の晴れた午後。 キリカは書斎から本を持ち出し、いつもの大樹の下に行く。 座り込んで樹にもたれて、時折吹く涼しい風の中、本を読む。 しばらくすると気だるい眠気を感じるキリカ。 本を抱えたまま、うとうとと眠り込んでしまう。 強い日差しの中、外壁沿いに見廻りに歩いていたアルテナは、 遠くに大樹の元のキリカを認め、歩み寄る。 近づいてみるとキリカはお昼寝の真っ最中のようだ。 アルテナはキリカの横にひざまずき、キリカの頬にそっと手を添えてつぶやく。 「こんなところで寝ていては……」 今はまだ暑いのだが、風も吹いているし、午後も遅くなれば外気は涼しくなる。 「……風邪を引いてしまいますよ」 しかし、うつむいて本を抱えて気持よさそうに寝ているキリカを起こすのを ためらってしまうアルテナ。 アルテナはしばらくそのままひざまずいていたが、 昨日クロエが自分にしてくれた事を思い出し、やおら自分の白いローブを脱ぐ。 キリカにそっとそのローブを毛布代わりにかぶせるアルテナ。 アルテナはキリカの耳元に顔を寄せ、 「適当なところで起きるのですよ」 とつぶやいて、そっとくちびるをキリカの頭に押し付ける。 アルテナは静かに立ち上がって、大樹から歩み去った。 (……あれ? いつのまに寝てしまったんだろう) 目が覚めたキリカは寝ぼけ眼で辺りを見回す。 日差しは弱まり、大樹の影は長くなり、風が涼しさを増している。 もう夕方の気配が近いようだ。 自分に首元までかけられた白く大きなローブに気づくキリカ。 (これは……?) 涼やかな外気の中、身にかけられたローブのおかげで寒くない。 (アルテナ……なのだろうか?) 樹の下で、アルテナの白ローブを毛布代わりにして寝ている自分。 その非日常にキリカは戸惑う。 (アルテナ……) ちょっとうつむいて、ローブにそっとくちづけをするキリカ。 荘園に涼やかな夕方が来る。 |